君という鍵を得て、世界はふたたび色づきはじめる〜冷淡なエリート教授は契約妻への熱愛を抑えられない〜
「……なら、どうだい? 最後に今夜、食事でも。君のこれからを鼓舞する意も兼ねて」
「そんな……。ありがたいんですが、遠慮させていただきます。先生もお忙しいだろうし」
「俺はたまたま予定が空いているんだ。気にすることはない」

この方との交流がいつまでも続くものではないと、さんざん自分に言い聞かせていた。

だから、もうきっぱり、ここでお別れしよう。

私は振り切るように立ち上がって、ぺこりと頭を下げた。

「名残惜しさが増してしまいますから。今まで本当にありがとうございました。先生もどうかお元気で」

最後にもう一度だけ、彼の顔を見たかった。
けれども勇気が出せなかった。
どうしてか、泣きそうになる。

足早に研究室を出て行こうとしたその時――不意に、伸びてきた長い腕が壁に手をつき、私の行く手を阻む。
思わず見上げると、彼の顔が目の前にあった。

今まで見たこともないような、焦りともいうべき表情をにじませて。

「結婚して欲しい」
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