お願いだから、キスしてください!〜妖精だけど人間に恋をしています〜

満月

 小人がわずか先に明かりが見える所で立ち止まった。
「着いたぞ」
 明るい方へ飛んで行って外を確認して戻って来たバイオレットが大喜びで言った。
「やったー! 月の妖精の湖だ!」
 バイオレットは小人の上に行き、ぐるぐると飛び回っている。
「ありがとう! おかげで間に合ったよ!」
 あまりの喜び方に、小人も照れている様子だ。
 フィオンの部屋のバルコニーから妖精の通路に落ちてどのくらい歩いただろうか。
 クタクタになるほどではないが、結構な距離を歩いたなとフィオンは振り返った。振り返っても帰り道はわからないのだが。
「帰りはどうすればいいんだ」
 フィオンがバイオレットに言うと、「わしはもう帰る」と小人が小声で言った。
「あたしが責任を持って人間界へおかえししますよっと!」
 バイオレットは、喜びのあまり明らかに言動が浮かれている。フィオンは心配になったが、例の月の妖精に頼めばなんとかなるだろうと考えた。
 それが顔に出ていたのか、バイオレットがフィオンにビシッと人差し指を突きつける。
「ちょっとぉ? あたしのこと信用してないの? 人間をきちんと人間界へ送り届けるエキザカムの一族よ。任せてよ。まぁこの小人みたいに近道は作れないけど」
「いや、何か困ったら月の妖精に頼めばいいなと思っただけだ」
 フィオンが正直に言うと、バイオレットの笑顔が凍った。あんなに浮かれていたというのに。
「あんた、月の妖精の怖さを知らないからそんなこと言えるんだ」
 フィオンとバイオレットのやりとりをよそに、小人は「じゃぁわしは帰るからな」とそそくさと引き返していった。
「ありがとう!」
 フィオンは小人の背中に声をかける。心なしか小人が頭を下げたように見えた。
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