逸 花(いちか)


 朝、母親の「行ってらっしゃい」の声に送られて自宅玄関のドアを開けて通りに出たところに隣家に住む幼馴染みの逸花が同時にドアを開けて出てきた。

「おはよう、宗ちゃん。」
「おう。」

白いブラウスに淡いラベンダー色のカーディガンを羽織り、ベージュ色の膝上丈のスカートでまとめた、いかにも清楚なJDという装いにショートボブのヘアが似合ってきれいだ。とっても眩しい。

逸花が俺のそばに寄ってきて、自然に2人並んで駅に向かって歩き始めた。
「大学、1時間目から真面目に通ってるの?」
「そうだよ。」
「ふ~ん、そうか。」
「なんだよ。」

「ううん、なんでもない。駅まで一緒に手をつないで行こうか。」
言いながら手を伸ばしてきたので、俺は慌てて手を引っ込めた。
「手をつないで? な・なに寝ぼけたことを言ってるんだ。」
いきなりの先制パンチで動揺してしまった。

「久しぶりに一緒になったんだもん、たまにはいいじゃないの。」
更に手を伸ばしてくる。
「朝から女と手をつなぐなんて、友達に見られたら『お前何やってるんだ』って大笑いされちまうよ。」
とりあえず動揺を隠して冷たく突き放す。

「いいじゃない、小さい頃はしょっちゅう手をつないでたんだから。」
「もう立派なオトナなんだぜ。」
逸花は諦めて手を引っ込めた。
「そうなの?でも一緒に学校に行くなんていつ以来なんだろうね。」

俺は中川宗一。逸花とは同年で中学校まで一緒だったが、高校は成績の良い逸花は有名進学校へ行き、一方そこそこの成績の俺は近くの公立高校だった。
そして今は大学2年生。逸花はもちろん周囲の期待どおりに超一流の国立大学へ、俺はまあそこそこの私立大学に通っている。
 
 逸花とは子供の頃はしょっちゅうお互いの家に行き来して仲良く遊んでいたものだった。
当時俺の家は母親も働いていたので、幼稚園の行き帰りはいつも逸花と一緒だったし、帰って来てからも逸花の家で面倒見てもらい、遊び疲れて逸花の家で一緒に寝ていて、母親に抱かれて帰ったことも度々あった。
その頃は逸花と俺は姉弟のようにいつも一緒にいるのが当たり前だったのだ。
 
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