逸 花(いちか)
 しかし、小学校に入って妹の蛍が生まれると母親が家に居るようになって逸花の家に入り浸る頻度が次第に減ってきて、さらに中学生になってしばらくすると2人の成績の違いによる俺のひがみと思春期独特の男子の心理とで逸花を避けていた時期があって、それ以来なんとなく逸花に近寄りがたい気持ちが2人の間の距離を大きくしていた。

 だからといって決して仲が悪くなったというわけではない。思春期男子の鬱屈した思いから、積極的に一緒に居ようとする時間が少なくなっただけで、俺の本心としては美人の逸花と親密に付き合いたいという基本の思いは子供の頃から変わってない。
思春期以降、逸花と一緒にいるのがただ照れくさかっただけなのだ。だから今日も本当は逸花と手をつないで歩きたいのは山々なんだが、男子の心理として好きな女子にはわざとつれなくしてつっけんどんな態度をとるのが常識だ。
逸花はそのあたりの男子の心理を理解できているのかどうかわからないが、そのような態度で接していても機会があればぐいぐい俺に迫ってくる。
 
「ねえ宗ちゃん、今度私の友達連れてくるから宗ちゃんの友達と合コンしない?」
「合コンだって?お前の大学の友達連れてきたって煙たがって誰も来ねーよ。」

「だめか、よく言われるんだよね。偏差値高い系の女子大生を相手にするのは気がすすまないって。」
「当たり前だろ。俺らとは話しが合わなそうだし、最初から上から目線で来られたって気分乗らねーよ。」

「そんなことないわよ、それは世間の誤解だよ。それじゃぁ合コンがダメなら2人でコンパしようよ。」
次のパンチが飛んできた。

「2人でって、お前と俺?」
「そうよ。他に誰がいるの?」

「それってひょっとしたらデートって言うんじゃねーの?」
「そうとも言うわね。」

「だからよりによってなんで俺がお前なんかとデートしなきゃいけねーんだよ。」
「私とはいやなの?」
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