狂い咲きの蝶
ほとほと疲れて家に帰るとまだ誰もいなかった。

時計は夜九時をさしている。


しかし理世が知っている場所はもうすべて探し終えた。

…これ以上どうしようもない…



「……」


家の天井のを見ていると、あらためて自分がこの家から去ってしまうさみしさがこみあげてきた。


…もうじきこの家を去る今、名残惜しい気持ちにひたりたいのに、杏音がそれをも阻んできたようで、イラついた。



母が帰ってきたのは夜11時もまわったところだった。
顔が涙でぐしょぐしょになっている。

ずっと本気で自転車をとばしていたのだろうか。
呼吸が苦しそうだった。


「そっか。杏音は一番大事な娘だもんね」


そんな母に対して思わず出た理世の本音。
その頬に平手打ちが飛んだ。

「バカ!」

母はそう言っただけで、なんら否定すらしなかった。

理世は
…やっぱり自分は家から消えるべき人間なんだ…
と心から思った。

ただ、さみしくて悲しいだけなのに、素直になれない私。

不器用な私。


――それに比べて杏音は…。

理世はひがむことで自分の存在を必死で守ろうとした。
ひがむのをやめたら自分が壊れてしまいそうで…。
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