わたしたちが死にたかった夜にも、きっと意味はあったんだ───。
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いつもは七夕の特集ばかりが放送されていたテレビでは沢山の局が私が死んだという自殺事件で大騒ぎだった。
「死ぬ日、間違えちゃったかな……」
わたしは少し世間に申し訳なく思いながら、改めて自分の体を見た。別にいつもと変わらない生身の人間の体。幽霊でも、死神でもない。
一体なぜ死ねなかったのかは、当の本人にさえ分からない。これこそ、重大な怪事件と言えよう。
いつまでもこうしてただぼーっとテレビに映る自殺事件のニュースを見ている訳にもいかないから、取り敢えず私は重い腰を上げて立ち上がった。
わたしの部屋のテレビでこのニュースが流れているということは、きっとわたしのお母さんもわたしが死んだことを知っているはず。
……涙を流して、ちゃんと悲しんでくれているかどうかは分からないけれど。母子家庭で育ったわたしには、勿論父親というものはいない。
女手一つで私を育てていくことはお母さんにとって、きっととても大変で辛いことだったろう。
だから別に、悲しんでくれなくてもいい。
ペタ、ペタ…と素足で階段を降りて行き、リビングに顔を覗くと、一人酒を飲んでいるお母さんがいた。
わたしが死んだというニュースを見ながら、お母さんは沢山のお酒に囲まれて感情の読めない目をしていた。
「お母さん……」