わたしたちが死にたかった夜にも、きっと意味はあったんだ───。


 それでもわたしはそれで良かった。私を殴ることでお母さんが不安や焦燥から解き放たれるのなら、わたしはその手駒となっても良かった。


「ううっ、……ぐっ…ぁ…、ふぅっ」


 泣きながら全力疾走していると、息が続かなくなる。靴下も靴も履いていないわたしの素足に、沢山の尖った石や木の枝が突き刺さって凄く痛い。わたしはさっきよりも激しい嗚咽を漏らしながら、ある目的地へと向かってひたすら走った。

 この世界にわたしが生きていられる場所なんてない。ずっとそう思っていたけれど、あの場所だけは───…。

 あの場所だけは、いくつもの鉛がのしかかって今にも押し潰されそうなわたしの心を、少しは軽くしてくれると思った。

 走って走って、もう足が限界を迎えていた時、わたしはその場所に辿り着いた。そこはやっぱり、何も変わっていなかった。

 風に揺られて錆びれた音をギィギィと出すブランコと、薄汚れた滑り台。公衆トイレを設置できるほどの広さの公園ではないけれど、どこか安心する場所。

 まるで世界から切り離されてしまったような、人影のない寂れた公園がわたしは小さな頃から好きだった。

 何か嫌なことがあるといつも決まってここへ来ては、このドでかい紅葉の木に話しかけるのだ。もちろん、それは木なのだから返事はくれない。

 それでもわたしの唯一の話し相手は、雨風に揺らされ、嵐にも耐え抜いてきた樹齢の長いこの木だけだった。

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