わたしたちが死にたかった夜にも、きっと意味はあったんだ───。


「……今日ね、本当に泣きたくなるくらい、悲しいことがあったの───」

『そうだったんだね……』

「…っ───!?」


 静けさだけが残る公園にわたしの声だけが溶けていく。───だけど、もう一つ。思わず涙が出るほどの優しい声が、わたしの体を温かく包み込んだ。


「……っ!?」


 わたしは突然のことに開いた口が塞がらなくて、辺りを勢いよく見渡した。……でも、そこには誰の姿もなく、人の気配は全くしない。

 それなら、わたしの言葉に返事をしたのは目の前に高々と威厳を持って存在する、この紅葉の大樹だということになる。

 ────が、無論そんなことはありえないと思った。もしそれが本当だったとしても、わたしは怖くて足を動かすことさえ出来なくなるだろう。


「あなたは、誰なの……───っ?」


 拭いきれない不安に襲われながらも、わたしは勇気を振り絞ってその声の主を探す。するとどこからかガサガサッと草木が揺れる音がして、わたしよりも背丈のずっと高い男の人が、現れた───。

 その姿を視界に捉えた瞬間、わたしの体はビクリ、という効果音が付きそうなほどに激しく震えた。不審者かな……っ、とも思ったが、なぜかわたしはその男の人に対しての恐怖心をあまり抱いていなかった。


「この名前を聞いたら、俺が誰かってこと、分かってくれるかな……」

「え……?」

「───……“蛍”」

「…っ……!!」

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