わたしたちが死にたかった夜にも、きっと意味はあったんだ───。


 ねぇ、お婆さん────。もしも、そのわたしを救った人が、あの人だったら、わたしは何を持って償えば良いのだろう……っ。

 まだ確信はないけれど、あの夜の日のあの人の反応。わたしを責めていた時の苦しそうな表情。

 世界から夜が消えてしまったような、そんな絶望感を抱いて、わたしの顔からどんどん生気が失われていく。


「お婆、さん……っ!あの、それ…っどういう意味、なんですかっ!?」


 悪い予感というものはよく当たると言うけれど、今の私のこの予感だけは、当たって欲しくなんてなかった。だから、どうか……っ。この予感だけは間違っていると、誰か言って───。


「お前さんを救うために、誰かの命が削られてしまったという、そういう意味じゃよ───」


 途端に、ひゅっ、とわたしの心の中に冷たい吹雪が襲った。顔は青褪め、今はもう夏だというのにわたしの肌には鳥肌がぞわわっと立っている。


「それ、どういう意味……っ、いやでも、そんなはずは……!!だって…っ「───お嬢ちゃん」


「過去は、どんなに悔やんだって変えられんのだよ」


 わたしの嗚咽ばかりの声を静かな声で遮ったのは、怖いほどに静かな表情をしたお婆さんだった。


「どんなに後悔しようとも、どんなに泣き叫んで許しを請おうとも、失った過去は変えられん。失ったものはもう二度と、この手には戻ってきてくれない。自分で自分の尊い命を終わらせようとしたお前さんを、許してくれる人はどこにもおらん」

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