わたしたちが死にたかった夜にも、きっと意味はあったんだ───。


 曲も終盤に差し掛かり、わたしはスマホの画面に指を近づけていく。電車が速度を落として駅のホームに入って来るのが視界に映る。

 わたしは息を潜めて、通勤ラッシュでいっぱいになった人たちの間をすり抜け、次の瞬間には地を蹴って宙に浮かんでいた。

 音楽がやむ。もう何も聞こえてこないイヤホンにそっと触れて、わたしはゆっくりと目を閉じた。不思議ともう何も聞こえなくなる。

 わたしが駅のホームに降り立つ直前、誰かが必死にわたしの名を呼ぶ声が聞こえてきた気がしたけれど、それはきっとわたしが思い描いたありもしない幻想だろう。

 体は重力に忠実に従ってどんどん下へと落ちてゆく。

 ブヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴーーーーーー‼‼

 電車は急ブレーキをかけて止まろうとするが、もう間に合わないだろう。わたしの持っていたスマホの画面が真っ暗になり、ツイッターの呟きを知らせていた通知音が鳴りやんだ。

 スマホはガチャンッという音を立てて、地面に落ちる。黄色い線の外側に降り立ったわたしはもう何だか全てがどうでもよく感じていた。

< 7 / 60 >

この作品をシェア

pagetop