わたしたちが死にたかった夜にも、きっと意味はあったんだ───。


「蛍、さん……」


 この十七年間の人生の中でたった一つやり残したものがあるとするのなら、わたしも蛍さんと画面上でもいいから話がしてみたかった、だろうか。そんなことを思いながら、わたしはギュッと強く目を(つむ)る。

 電車がわたしにどんどん近づいてくる。ドンッ‼という聞くに堪えない大きな音がしたかと思えば、もうそこに女子高校生の姿はなかった。

 辺りには真っ赤に染まった鮮烈な血ばかりが飛び散り、人間の死体と思われる残骸が電車に敷かれてもう動かなくなった腕だけが何の汚れもなく垂れ下がっていた。


「キャアアアアアアアア……ッ‼‼」

「どうしたっ⁉一体何が起こったっていうんだ‼」


 駅のホームの騒がしさは途端に緊迫としたものになり、ヒステリックな声が不気味に響き渡る。そんな人々の中、一人の成人男性だけが、地面に膝をついてこの世の終わりだというような光を失った瞳でさっきまで女子高校生がいたと思われる方向を見ていた。


「そんな、……なんで…っ」


 その声音は誰が聞いても分かるほどにうろたえていて、今起こったことを未だに信じられないというような情緒不安定な様子でその青年は震える手を口元に持って行った。その男性はの体は驚くほどに強張っており、全身がぶるぶると震えていた。

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