【コミカライズ】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか? 〜破局寸前で魅了魔法をかけてしまい、わたしのことが嫌いなはずの婚約者が溺愛してくる〜

08_つづじ色の鋭い眼差し

 
 応接間に案内して、二人で向かい合って座った。元々お互いに口数が少ない上、共通の話題もないため、部屋の中に静寂が広がる。

(う……気まずい)

 天気の話でもしてみようか。いや、家族や好きな食べ物の話がベタだろうか。話題の種をあれこれと考えるエルヴィアナ。しかし、気まずいと思っているのは自分だけのようで、クラウスは幸せそうに目を細めながらこちらを凝視している。人の顔を見て何がそんなに嬉しいのだろうか。こちらとしては尚のこと気まずい。

 エルヴィアナが気まずそうにしていることを察した彼が、申し訳なさそうに口を開ける。

「すまない。俺はあまり口が上手い方ではないから、こういうとき君を楽しめる話が思い浮かばない」
「いえ、それはお互い様よ。クラウス様こそ退屈では?」
「まさか。俺はエリィと同じ空間にいるだけで幸せだ」
「……またそうやって調子のよいことを」

 嫌いな相手との時間を幸福にしてしまうなんて、やっぱり魅了魔法の力は恐ろしいと苦笑する。

 すると、クラウスの視線がソファの後ろに飾られている騎士の甲冑に留まった。両手から地に剣を突き立てていて、剣の柄の先に青い飾りが吊る下がっている。

「あの飾り紐は……」
「年季が入っているでしょう? あれは祖母が実際に祖父に贈ったものなの」

 祖父は遠い昔、一兵卒として戦って武勲を上げた。戦に出るとき、祖母はお守りとして剣に付ける飾り紐を贈ったのだ。
< 29 / 112 >

この作品をシェア

pagetop