交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
一、結婚します




7月初旬。例年より早く、随分と慌ててやってきた台風がもたらす風雨は、こじんまりとした〝古嵐定食〟の静けさをいっそう強めた。

「いやあ、今日はもう店、閉めるか」

「そうねぇ。これから酷くなるって言うし、雨漏りの対策をして大人しくしていましょう」

父と母の会話を聞き、私も頷く。

「じゃあ私、暖簾片付けてくるね」

そう言って外に出ると、今は風より雨が強く降っていて、曇天の空を見上げて内心でため息をつく。
台風が来ることは知っていても臨時休業せずにいつも通りに店を開けなければならないほどには、うちの定食屋は経営の危機に陥っている。

1ヶ月ほど前のことだ。雇っていたアルバイトが、有り金を盗んで行方をくらませてしまったのだ。
警察には行ったし、アルバイトの子が捕まるのも時間の問題だろうけれど、お金が戻ってくる可能性は極めて低いとのこと。
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