交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~



その日は、仕事が休みなので古嵐定食の手伝いをしていた。
午後、お昼休憩を取って戻ろうとした時、スマホが着信を知らせる。

知らない番号に一瞬躊躇ったが、ダイヤルが企業を指していたため通話ボタンをタップする。
電話の相手は一織さんの秘書をしている方からだった。

この後の会議でどうしても必要な書類を自宅に忘れたから私に届けてほしいと。
私は了承して、両親に断り自宅に戻る。
それから指定された場所に置いてあった封筒を手に、一織さんの会社へ向かった。

平日の昼すぎ、閑散としたオフィス街を歩き、一際大きなビルを前に息を飲む。
国内トップの大企業ともあれば、ここに出入りする人達は皆エリートばかりだ。
見るからに平々凡々な私が足を踏み入れて、怪しい者だと思われやし無いだろうかと尻込みするが、そんなことをしている場合じゃないと用件を思い出す。
広々としたエントランスのなるべく端を通りフロントに申し出ると、ほぼ顔パスで「深山様ですね。ご案内致します」とにこやかな笑みとともにあっさり社内に通された。

話を通してくれていたのだろうが、拍子抜けしてしまう。
もっと、身元確認とかされるかと思った…
一織さんが社長だからかな。一応、私は社長夫人だから…

なんて考えていると、エレベーターが最上階に着く。
受付のお姉さんはエレベーターに乗り込み階数を選択するところまで見届けてくれたので、1人でこんなところを歩いていて本当に良いのかとドキドキしながら廊下を進んだ。
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