交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
えーと、突き当たり右の正面……
一織さんの部屋だと教えられた社長室を見つけ、一層荘厳な雰囲気を醸し出す部屋へと歩みを進める。

ふぅとひと呼吸おいて、ノックをしようとした時だった。

「そういえばお前、奥さんに話してるのか?」

先程電話をくれた秘書の方だろうか。一織さんが前に、同級生で気心の知れたやつだからやりやすいと話していたのを思い出す。
砕けた口調だから、仕事の話ではないのは分かった。
なんでもないようなセリフなのに、思わず手を止めてしまう。
このままだと盗み聞きみたいになってしまうのに…

「正蔵じいさんと、奥さんのお祖母さんのこと」

続いて聞こえてきた言葉に、今度こそ身動きできなくなった。ついでに息まで止まりそうだ。

「いや、話してない」

一織さんが答えた。
話すって…何を…?
私の知らない話なのに、私が絡んでいるのは明らかだった。しかも、おばあちゃんまで…?

「はぁ? お前、夫婦の隠し事は喧嘩の種だぞー?」

「…分かってる」

隠し事。ドキドキと心臓が嫌な音を立てて暴れる。まだ、どんな話なのか分からない。分からないから、怖い。

「正蔵さんの言いつけを守るために結婚したんだろ。古嵐家に恩を返すチャンスだったから」

どういうこと…?私たちの結婚に、お互いの祖父と祖母が関係しているの?
いや、それ以前に、一織さんは私のおばあちゃんを知っているのだろうか。
確かに私たちは、あの台風の日が初対面のはずで、一織さんが古嵐定食を知ったのもあの日だと思っていた。
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