交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~
あんまり早く押しかけるのは迷惑だから、9時半までは耐えた。
小梅には連絡をせずに、小梅の母親にはこっそりメッセージを送っておく。
俺のことが嫌で実家に帰ったのなら、俺が来ると知ったら逃げられるかもしれないと思ったのだ。
このまま、小梅と話せないのだけは駄目だ。
「あ、一織くん。いらっしゃい!」
「すみません、朝早くに押しかけてしまって」
「いいのよ〜。 小梅と喧嘩でもしたのかしら」
ふふ、と笑い皺を刻む義母に、なんだか少し力が抜ける。小梅と義母は似ていると思う。
迷惑がるでもなく、穏やかに笑って招き入れてくれた。
「よく分からないけど、とにかく上がって。小梅なら2階にいるわ。 何も無ければ死ぬまで一緒にいるんだもの、夫婦に喧嘩はつきものよ。喧嘩したって、仲直りすればいいんだから」
「…ありがとうございます。お邪魔します」
自分の母はいつも忙しそうにしていたし、こうして笑いかけられたのも、落ち着いて話をしたのも最後がいつだったか思い出せない。
暖かいこの家庭でのびのびと育った小梅だから、俺は彼女に惹かれたのだ。
階段を上がってすぐの部屋が小梅の部屋らしい。
コンコン、とノックをすると、「お母さん? やっぱり10時のおやつはお父さんも帰ってきてからに……」とくぐもった声が聞こえてきた。
10時のおやつ。随分と可愛らしい約束を母娘で交わしていたらしい。
しかし、生憎俺は小梅の母親ではない。
「俺だ」
名乗らなくとも、声で伝わったのだろう、「え、え!?」と素っ頓狂な声が聞こえたと思ったら、部屋がしんと静まり返る。
「入ってもいいか、小梅」
やや間があって、「どうぞ」と許可が出たのでドアノブに手をかける。