天使の受難 アレクサンドラとグルシア(魔法の恋の行方・シリーズ10)
「煙草、もう一本くれ」
魔女が顔を上げて、疲れたように言った。

「ああ」
グルシアは箱を押し出し、ライターをつけた。

魔女はたばこをくわえて、火をつけ、目を細めて大きく煙を吐いた。

グルシアは質問した。

「その、妨害に会ったとか、嫌がらせを受けたとか、師匠の魔女になぜ言わなかったのだ?」

魔女は、灰皿に灰をトンと落とし、腕組みをした。

「魔界つーとこは、弱みを見せたら、必ずそこに付け込んでくる。
だから、仲良くしていても、
実はみんな敵なのさ。

利害関係が一致すれば、協力もするが。
師匠に言っても、自分で何とかしろって言われるのがオチ。

自分にメリットの無い、そんなめんどくせーことは、ぜってぇーやるわけないって」

魔女は、たばこをふかし、その煙をぼんやりと目で追っていたが、フンと鼻で笑った。

「でも、やられっぱなしというわけじゃないぜ。
まぁ、アタシが指揮官になった時、リリカをニンゲン界の辺境送りにしてやったし」

しばらくして、ふぅと息を吐いて、エメラルドの瞳が伏せられた。

「リリカの奴、きっと今のアタシの立場を、腹を抱えて笑っているだろうな」
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