天使の受難 アレクサンドラとグルシア(魔法の恋の行方・シリーズ10)
魔女は自虐的に言い放つと、
立て続けにワインをあおり、たばこをふかした。

魔女のたばこの煙が、窓の方に流れていく。

友達もいない、仲間を信じない、魔界で生き抜くのは、サバイバルだ。

信じられるのは、自分の力だけだ。

こいつを無害化できるのか?

グルシアが考えていると、
窓から、教会の誰かが練習で弾いているのだろう、ミサ曲が流れてきた。
美しいコラールが、波のように引いては寄せる。

ふと、見ると、魔女は眠っていた。

ひどく無防備で、美少女らしからぬ、よだれをたらしている。

今はニンゲンの体なので、さすがに押し寄せる疲労に、耐えられなかったのだろう。

「おいっ、寝室に行って寝ろよ」

グルシアはそばにあった、本の角で魔女の肩をつついた。

「うん、ん、わかった」

魔女は、眠気に勝てないというように、よろめきながら、寝室に戻った。
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