図書館の彼



彼とは度々図書館ですれ違い、たまに本について少し話したりもした。


「そういえば暑くないですか?長袖。」


7月上旬。

さすがに長袖では少し暑くなってきた頃、未だに長袖を着ていた彼に何となく聞いてみた。


「大丈夫ですよ。
それよりこの本なんですが──」


その時は特に気にもとめなかった。

色白で顔の血色もそんなに良くないことから、体が弱かったりするのかもしれない、と勝手に考えていたせいでもあった。


けどふと、上の方の本をとっている時に彼の素肌が見えて、その腕にはいくつもの赤い斑点があった。

注射のあとのような、小さいものだった。


彼は私がいることに気づき、慌てて袖の中に腕を引っこめる。


「こんにちは。」


「こんにちは。今日は何を読んでいるんですか?」


「今日は──」


ただ図書館で会うだけの関係で、彼と本の話をするのは結構好きだし彼が何者か多少気になりはしたが、彼についての何かを私に聞く勇気はなかった。

名前さえ知らない。


そんな日が続いた、ある日。


その人が職員らしき人と言い合っているのを目撃した。

こちらに気づくと職員らしき人にひとこと声をかけて、笑顔で近づいてくる。


「こんにちは。」


「……こんにちは。
あの、大丈夫ですか?」


「はい。
あの人は知り合いで、ただ少し揉めただけです。」


「そうでしたか。」


「ごめんなさい、今日は予定があって。これで失礼します。」


「あ、はい。」


ニコッと笑って会釈するとさっきの人の所へ戻っていき、ふたりで図書館を出ていく。

様子を見るに親密ってわけではなさそうだけど、どういう関係なんだろう。


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