愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

シンデレラは夢を見る

花蓮(かれん)はウエディングドレスを着ていることに、これが現実ではなく、夢なのだと気が付いた。

「好きだよ」

タキシード姿の(すばる)が、極上の笑顔で告げる。
欲しくて欲しくてたまらなかった言葉は甘く、ハチミツを飲み込むようにじんわりと全身に浸透した。

「大好きだよ。ずっと一緒にいよう」

花蓮は感極まり、勢いよく広い胸に飛び込んだ。思い切り深呼吸をし、昴の匂いを堪能した。

「昴さん……」

(好き、わたしも大好き)

長い付き合いの中で、昴は安らぎを与えてくれる存在だった。
辛いとき、彼との穏やかな時間に救われた。
ずっと覚めずに、このまま夢で愛し合えたらどんなに幸せか。

昴は「行こう」と力強く手を引いた。

地面を蹴ると、虹の架かる空へと飛び立つ。
二人で真っ青な空を笑い合いながら泳ぐ。

大きな雲の上に降り立つと昴は膝まずき、ポケットからリングケースを取り出した。
箱を開けると、気品あふれる黒のベルベットに包まれたリングが光る。

箱はオルゴールになっていたのか、蓋を開けたと同時に音楽が流れ始めた。
場にそぐわない陽気な曲調に首を傾げたが、今はそれどころじゃない。
リングの中央には、指からはみ出そうなほどの大きなダイヤモンドが鎮座していた。
これから聞かされる言葉を想像して、期待に胸が膨らんだ。
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