ワケありベビーと純真ママを一途な御曹司は溢れる深愛で離さない~君のすべてを愛してる~
嫌なことを思いだしたのか、眼鏡の奥の眉間を撫でる。

「ああ、最終段階でイチャモン付けられないようにしなくてはな」

早間の専務とは、花蓮の母親、香だ。

昴は元々、いつも険のある香を好いてはいなかったが、花蓮の複雑そうな事情に、尚更苦手になった。
昴は、香が経営者の器ではないと思っている。

輸入食品を主に扱うメーカーの一人娘で、流通にも商品開発にも携わったこともなく、ましてや営業経験も無いのに、聞きかじった知識と根拠のない個人的見解のみで仕事に口を出してくる。

初期段階に意見を言うのならまだわかるが、ほぼほぼ出来上がった物に対して難癖を付けるため、これまでに何度予算やプラン修正を余儀なくされたかわからない。

おかげで、文句を付けられないように事前に手を回す手法を覚えた。
今日も根回しは万全でプレゼンも対策用、これでもかというほど詳細な説明が記載されている。

「L×Oに関してまで、ご自分のブランドだと思ってらっしゃるところがありますからね」

オーガニックブランドを作ったきっかけは、女性社員がオーガニック食品だけを扱った野菜スイーツブランドがあればいいのにと、社内アンケートに書いたことだったらしい。

野菜スイーツというアイデアを気に入って、その意見を吸い上げたのは評価できる。

しかし、昴はプロジェクト立ち上げ当時は学生だったため詳しくはないが、発信した社員をプロジェクトに参加させず、すべてを自分の手柄のようにした。

全国各地の農家を駆けずり回って契約をとったのも、桜杜で、工場やシェフとの交渉にはまったく関与していない。
参加したのは最終決定の会議のみ。その一回参加しただけの会議で、決定事項を覆し、リリースを遅らせた。さらにはその遅延損害金を桜杜側が負担させられるという煮え湯を飲まされた。

花蓮の今の状況に関しても理解しがたい。
なぜ、愛してやらないのか。あんなにも家族という存在を欲しているのに。

実の子ではないとはいえ、愛した男の娘だ。
長年一緒に暮らしているのだから、情くらい湧いてもいいだろうに。
それは、自分が同じ立場になってから尚更感じる事だった。

(花蓮が愛する娘が、可愛くないわけない)

笑ってくれたり差し出したご飯を食べてくれたり、小さな手で触れられると、むず痒いような堪らない気持ちになる。
最近では名前まで呼んでくれ、甘えて来るようになった。

いずれは、本当の父親になれたら……。

(それにはまず、花蓮に認めて貰わないとな)

執務室の内線が鳴る。
但馬が受け、返事だけをしてすぐに切った。

視線だけで促される。早馬のスタッフが到着したようだ。
ジャケットを羽織り、資料を手にすると立ち上がった。
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