愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

虐げられたシンデレラ姉妹の過去

花蓮が大学に入ってすぐ、姉のゆかりが家出をした。

早間の名前を捨て二度と関わらないから、探さないでくれと書置きをして。
そのころゆかりには両親が決めた婚約者がいて、結婚を控えていた。

相手は四十歳を超え離婚歴のある男で、一度も会ったこともない人だ。
もちろんゆかりの望んだ相手ではなく、親同士が決めた政略結婚であった。

ゆかり自身の意見など受け入れて貰えるわけでもない。
婚約が決まってからというもの、ゆかりは隠れて泣くことが多くなった。

婚約を言い渡されてから半年後、結納の日取りが決まった。
喜々として話を進める両親の影で、ゆかりはどれほど絶望していたのだろう、結納当日の朝、ゆかりは姿を消した。

当日は体調不良でなんとか誤魔化したが、二週間後に改めてスケジュールが組み直された。
見つからない姉のかわりに、花蓮があてがわれそうになる。

男とは何度か家を訪れた際に会話を交わしたことがあったが、男は金に汚くて、肥えていて下品だった。
舐め回すような視線に嫌悪していた。

自分の身に降りかかって、やっとゆかりの辛さを理解できる。
この家で、幸せだと思ったことはなかったが、人生に絶望までしたのは初めてだった。

ゆかりがかわいそうだと思っていたが、結局は他人事だったようで薄情な自分を知ってショックを受けた。
バチがあたったのだと思った。

自分に出来ることはない。だから仕方ないと言い訳をして、親から疎まれることを恐れて動かなかった結果だ。

昴の婚約者という立場は、花蓮にとって唯一の希望だった。
愛されなくても良いから、尽くしたい。

そんな気持ちで長年婚約者として過ごしてきたのに、それすらも叶わなくなる。
この先、明るい未来などないのだと思い知り、眠れない日が続いた。

いっその事、自分も家を飛び出そうかと思った矢先、男の会社で警察が介入するような事件が起こり、縁談自体が流れた。

結局、花蓮は昴との関係を継続できるようになったわけだが、いつまた同じような話がでるのか怖くてたまらなくなった。

男との縁談と同時に会社の取引もなくなり、暫くの間、香からの当たりがきつかった記憶がある。本音を語れる姉を失い、家ではびくびくしながら過ごした。

大学の友人達は花蓮の家柄を羨ましがったけれど、彼らのほうがよっぽど自由で華々しい。
籠の鳥のような自分の人生は色あせて見えた。

ゆかりの行方は依然わからぬまま。

昴との関係を継続できて嬉しい筈なのに、自分ばかりこのまま親の言いなりでいいのかと、漠然とした焦りを感じるようになった。
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