愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

シンデレラは王子の愛に悩む

週末の金曜日ともなると、一週間分の疲れが溜まり疲労はピークだ。しかし明日が休みだと思うと、週半ばよりなぜか元気が出た。

人員不足で、今週から勤務が長くなっていた。

花蓮はたった1時間延長されただけだが、体が慣れていないからいつもより疲れるし、スケジュールが後ろにずれるだけで、時間の使い方が上手く行かずバタついてしまう。

今日の勤務は延長に延長を重ねて、五時半までの勤務もオーバーし六時半になっていた。
これから会社帰りの買い物客で混雑するというのに、退社しなくてはならないことを肩身狭く感じて、体を小さくし、そそくさと事務所に戻った。

事務所の窓から駐車場を覗くと、昴の車が見える。
一度帰宅してくれていたらと思ったが、ずっと待っていてくれたようだ。

ロッカーを開けスマホを取り確認すると、メールアプリにいくつか通知が来ていた。

『お疲れ様。焦らずゆっくりおいで』

花蓮が慌てながら出てくると踏んで、先手を打ってくれている。

「シンデレラ、王子様がお待ちよ」

「もう、やめてくださいってば」

事務所には山根がいた。いつもと変わらないひやかしに軽口を叩く。
ものすごい勢いで着替えて荷物を纏めていると、山根は含みを持って言った。

「そんなに急いで、途中で靴を落とさないようにね。王子様って顔だけじゃなくて性格も素敵よね。とっても寛容な人みたいだから、そんなに慌てなくても大丈夫よ」

(性格も素敵?)

「はあい?」

それはわかりきったことだが、いつ山根が性格を知る機会があったのだろう。
いつもに増してニヤニヤとする山根に、首をかしげながら返事をし事務所を飛び出した。

生憎、花蓮はスニーカーだから、走っても脱げてしまうことはない。
駐車場へ出ると、昴は絶妙なタイミングで車を降りて助手席のドアを開けてくれた。

きっと、少しでも早く出発出来るようにとの配慮だ。
有難いけれど、本当にお姫様のような扱いでほんのり恥ずかしかった。

きっと事務所の窓から覗き見している山根に、明日も揶揄われることだろう。
花蓮がシンデレラならば、ドイツ製の車はカボチャでなくてはならない。

そんな失礼なことを言えなくて、昴が王子様と騒がれていることは内緒にしている。
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