【完結】鍵をかけた君との恋
「産婦人科の先生がそう言ったのね?」

 陸の母と楓が帰ってきた食卓で、私はこれまでの全てを話した。楓はひたすら俯いているし、陸の母の目は冷たかった。

「じゃあ、言わせてもらうけど」

 おばさんに怒られる。馬鹿じゃないのと突き放される。そんな不安で胸が押し潰されそうになった時だった。

「おめでとう!乃亜ちゃんっ」

 彼女はいつもの笑顔でそう言った。呆気にとられる私の前、彼女は続ける。

「乃亜ちゃんのお腹の中に赤ちゃんがいるんでしょう?素晴らしいことじゃない!」
「あ、いや、でもっ」
「母親である乃亜ちゃんが、お腹の子の命を喜んであげられなくてどうするの?」

 私の両手をとる彼女。

「乃亜ちゃんのお腹に小さな命があるんでしょう?ふふっ。想像しただけで可愛いわね」

 未成年を大幅に飛び越えて、まだ中学生である私の妊娠を、ここまで喜んでくれる人がいることに喫驚した。

「何よその先生!おめでとうが言えないだなんてひどい!産婦人科医の資格ないわっ」

 さっきまでの彼女の冷酷な目は、私に向けられたものではなかった。

「ちょっと陸!」

 しかし彼女の顔は一転、再び怒りに満ちる。

「な、なんだよ」
「あんたはちゃんと言ったの?乃亜ちゃんに『おめでとう』って!」
「い、言ってないけど……」
「あんたまさか、ネガティブなことばっかり乃亜ちゃんに言ったんじゃないでしょうね!これだからあんたは頼りにならないのよ!」

 バシッと叩かれる陸の頭。彼はその頭をさすりながら「おめでとう」とぶっきらぼうに言い、私はカタコトで「ありがとう」を返した。

 そんな私達のやり取りを見ながら微笑した陸の母は、今度は真面目な顔を作る。

「心配よね乃亜ちゃん。これからのこと」
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