冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
プロローグ
 繊細な細工物を扱うようにベッドに横たえられ、あさひはたまらず熱い吐息を零した。
 身をよじるまもなく、凌士(りょうじ)が覆い被さってくる。ふたり分の重みを受け、ベッドがかすかに軋んだ。
 切れ長の目が、あさひを真上から射貫く。職場では冷たい印象さえ与える目は、今は焼けつきそうな熱を帯びていた。

(心臓の音がうるさくて……破裂しそう)

 逃げ出したくなるほどの羞恥と、触れられることへの期待がまざり合う。
 悲しくもないのに、どうしてか涙が出そうだ。

「もう待てない」

 甘く胸を揺らす、低音域に艶のある声。
 無条件に頭を垂れてしまいそうな、強い視線。
 逃さないという、たしかな意思が伝わってくる。
 
 社内では、畏れとわずかな揶揄をもって「鋼鉄の男」と呼ばれる凌士の表情に浮かぶのは、まぎれもない熱情。
 シーツに縫い止められ、あさひが言葉すら満足に紡げずにいると、すかさず耳を甘噛みされる。あさひは色めいた吐息とともに体を跳ねさせた。

「凌士、さん」

 かすれた声で凌士を呼ぶと、凌士が飢えた獣のように目を鋭くした。耳から首筋へ、唇がさらに下へおりていく。
 鎖骨のまろやかな線をなぞり上げられる。
 そのたびに呼吸が乱れ、あさひは甘い声を零す。
 たまらずシーツを握りしめれば、乱れた髪を凌士の手が梳いた。何度も。愛おしむように。

「俺はあさひを、決して泣かせない。だから安心して俺にすべて預けろ」
 
 頭を屈めた凌士のキスを、あさひはそっと受け止めた。
 ひんやりとした手のひらが、あさひの輪郭をたしかめるように撫でる。

「そんなこと言われたら……気持ちごと差しだすしかないじゃないですか」
「そうしろと言っている。ほかの男に取られるのはごめんだ」
 
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