冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
 部員らはまだ興奮冷めやらぬ様子で、席にもつかずにあちらこちらで話に花が咲かせ始める。ちらちらとこちらを見られるのがたまらない。あさひはともすればうつむきたくなる心と闘うのに懸命だった。

 少々恨みがましい思いで、凌士のスーツの裾をつんと引っ張る。

「統括、さらし者になった気分なんですが……! 自席に戻るのが恐ろしいです」
「しばらくは、どこへ行ってもいじられるぞ。なんせ俺の妻になるのだからな」
「嬉しそうですね?」
「そりゃあな。これで誰も、あさひにちょっかいをかけない。それと、今日の昼休憩に役所へ行くぞ」
「……え! 心の準備が……!」
「婚姻届の証人欄は、野々上と手嶋に頼むか」
「ええ!?」
「冗談だ」

 凌士がくつくつと声を立てて笑う。意外な表情に、近くの部員がぎょっとした。凌士はその視線も平然と受け止めて笑う。そんな風に嬉しそうにされたら、怒る気が失せてしまった。

 だから、形ばかり拗ねてみせる。

「凌士さんが、こんなひとだなんて知りませんでした」

 独占欲を隠しもせず、堂々と囲うひとだなんて。

「俺も知らなかったが……こういう男に捕まったのも運命だと諦めて、おとなしく俺のものになっておけ」
「最高に幸せな運命です」

 凌士を見あげると、社員から死角になる机の下で手を握られる。

 あさひを見つめ返す凌士の目は、愛しさを映してなにもかも解けるくらいに、甘かった。



【END】
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