冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
「そういや昔の夢は、航空機のパイロットだったな」
「えっ、意外です」
「すぐに、親に止められた。どう足掻いてもその道には進めないと知らされて、早々に諦めたな。まあ、子どもの他愛ない夢だ」

 御曹司には御曹司なりの悩みがあるのだ。凌士の不自由さを思い、あさひは先に食べ終えた凌士のためにゆで汁を蕎麦ちょこに注いで渡す。

 あさひの感情を読み取ったのか、凌士は受け取ったそば湯に口をつけながら苦笑した。

「敷かれたレールのとおりに入社して、最初に配属されたのは技術開発本部だった。息子が相手でも容赦がないと思ったものだ。なにせ車の心臓部、エンジン開発だからな。だが、やってみたら、これが奥が深い。すぐに夢中になった」

 凌士が当時を懐かしむように、窓の外へ視線を向ける。

「どんな仕事でも、やってみればどこかしら面白味がある。やれば結果もついてくる。周囲に潰されずにやれたのはそのおかげだ。それでも、常に如月の後継者という立場がついて回る以上、立場に見合う実力を一刻も早くつけてやろうと、がむしゃらだった」
「立場に見合う実力……ですか」

 実力で立場を掴むのではなく?

 腹落ちしないあさひを見返し、凌士は食べろとうながす。あさひは、いつのまにか止まっていた箸をふたたび動かした。

「俺の場合はどうしても立場が先に立つからな。こればかりはしようがない。いま思えば、見返してやりたいという動機が若かったが……器が中身を作ることもある」

 あさひが食い入るように凌士を見つめるのに気づくと、凌士は苦笑した。
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