冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
「話半分に聞け。社外で説教する気はない」
「とんでもない。目からうろこでした」

 実力がないと嘆くより、これからチーフという器に見合う中身を作ればいいのか。

「わたしも器に見合う中身を作ります。なるべく早く」
「焦るな。あさひはまだ若い」
「でも」

 あらためて、上司に恵まれていると感じる。
 背負うものはまったく違うけれど、次期社長という大きすぎる器に見合うべく努力してきた姿勢に、あさひは共感した。能力そのものだけでなく、その考えかたにも憧れる。

 一方で、負けず嫌いな一面や、少年時の無邪気な夢はごくふつうのひとと変わらず親近感が湧く。

 むしろ、内面を知れば知るほどもっと知りたくなる。

「まあ、自分に満足がいくよう全力を尽くせ。見ててやる。それに器を満たせるだけの土台は、あると思うぞ」
「……はい!」
「気負うな。いつでも頼ればいい」

 食べ終えたあさひの蕎麦ちょこに、凌士がゆで汁を注ぐ。お礼を言って口に運んだそば湯は、とびきり優しい味がした。
 


「プライベートで奢られたのは、初めての経験だな」
「光栄です。毎回、奢られてばかりではわたしの身が保ちませんから」

 あさひは朗らかに返す。
 マンションはすぐそこだ。ドライブを満喫したあさひたちが戻るころには、すっかり日が暮れていた。日の沈む速さに、冬の気配の近さを感じる。

 蕎麦屋ではあさひが会計をした。そうしないと気が済まない、と意気ごむあさひに、凌士は苦笑して引き下がった。しかしそれもつかのま、夕食はまたご馳走になってしまったのだけれど。

「そういうものか」
「そういうものです。また奢らせてしまうと思ったら、もし次に会おうと思っても声をかけづらくなるものじゃないでしょうか?」
「それは困るな。次も声をかける気でいるんだが」

 一般的な意見を言ったつもりが、思わせぶりな返答に肩が跳ねた。

(わたしに……?)

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