冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
 失恋して弱音を吐いたあさひのために、凌士は貴重な休みの日に時間を作って連れ出してくれたのだ。

(どうして、直属の部下でもないのにそこまでしてくれるんですか……?)

 困惑が目に映ってしまったのだろう、凌士が続けた。

「よけいな世話だったか」
「とんでもない! あの、少しだけここで待っててください! すぐ戻りますから」

 あさひは反射的にかぶりを振り、自分の部屋に駆け戻って目的のものを手に取った。走って凌士の元へ戻る。

「これ、よければ帰りのお供にどうぞ。運転、お疲れでしょう。ゆっくりお休みになってください」

 先日、コンビニで見つけて思わず買ったカフェオレの新製品。買ったものの、冷蔵庫に仕舞ったままだったのだ。
 凌士は礼を言ってカフェオレのペットボトルを受け取ると、表情を崩した。普段の険しさからは想像もつかない、甘い表情だった。

 あさひは目をみはり、うろたえて視線をさまよわせる。

「次はどこがいいか、考えておけ。言っておくが、業務命令じゃない。俺がそうしたい」

 これは、昼食時の話を受けての誘いだろうか。御曹司をやるのに疲れたら……という。

(そうよね、ほかに誘われる理由なんてないし。今日のドライブが、凌士さんにとっても息抜きになったなら……)

 できる限り、凌士がいっときでも立場を忘れられるように。

「わかりました、考えておきますね」
「ああ。頼むぞ」

 凌士は満足そうにペットボトルを軽く振ると、車に戻っていく。

(冷徹で強引なはずなのに……どうしてそんな、嬉しそうな顔なんか)

 その背中を見つめながらも、あさひの胸には困惑がこびりついてざわついたままだった。 

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