鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
 特別親し気な、元・婚約者候補たち。
 どくん、とマリアベルの心臓が変な音をたてる。
 二人が仲良さげに話すのを、嫌だ、と感じた。
 その人じゃなくて私のほうを見て、とも思う。

「……?」

 それは、これまでの彼女が知らなかった感情だった。
 自分が置かれた状況が自分で理解できず、マリアベルは戸惑う。
 アーロンに対して、他の女性と話さないで、なんてふうに思ったことはこれまでなかったのだ。

「マリアベルさん?」
「どうした、マニフィカ嬢」

 硬直してしまったマリアベルに、班員の一年生たちが心配げに声をかける。
 ハッとしたマリアベルは、きっちり授業に参加する方向に気持ちを切り替えて、なんとかその場を乗り切ったのであった。
 
 しかし、その後の座学では集中を欠いて。
 昼休みも、せっかくのみんなでのお弁当タイムなのに、どこかぼうっとしていた。

「ベル、どうかした? もしかして、体調が優れない?」

 そうアーロンに声をかけられても、

「いえ、そういうわけでは……」

 ぐらいの返ししかできない。
 アーロンを見ると、なんだかもやもやする。
 合同授業のとき、他の女性と話していた場面を思い出してしまう。
 元婚約者候補、という言葉も何度もちらついて。
 最終的に、マリアベルは自分を心配する彼から視線も顔もそらし、そっぽを向いてしまった。

――ごめんなさい、アーロン様。

 マリアベルに無視されてショックを受けた様子のアーロンを横目に見つつ、心の中でだけ彼に謝罪した。
 こんな気持ちになるのは初めてで、マリアベル自身、制御ができなかったのだ。
< 105 / 113 >

この作品をシェア

pagetop