鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
「あら、これはなにかしら?」
「あっ……! それは……!」

 クラリスが、マリアベルとコレットのあいだに置かれていた小袋を手に取る。
 紙袋に、可愛らしいシールで封をされたそれには、コレットの手作りクッキーが入っている。
 クラリスも、袋の作りなどから、中身はなんとなく察している。
 コレットがハッとして顔をあげ、返して欲しそうに手を動かしたものだから、クラリスの気分はさらに上昇する。
 手が滑ったふりをして落としてやろうとか、そのあと踏みつけてやろうとか、そんなことを考えていた。

――さて、どうしてやろうか。

 にやりと笑うクラリスだったが、ある人物が現れたことにより、動きをとめることになる。

「やあ、ベル。コレット。……それから、クラリス嬢」
「アーロン様」
「あ、アーロン様!?」

 にこやかに、アーロンが登場したのだ。たまたま近くを通りました、みたいな顔をして。
 マリアベルは、あらこんにちは、といった具合で。
 クラリスは、アーロンの想い人――そのデレデレ具合から周知の事実なのである――に嫌がらせをしていた場面を見られたことで、明らかに動揺して。
 みなが、突然現れたアーロンに視線を向けた。
 アーロンは、すたすたと歩を進め、マリアベルたちとクラリスのあいだに割り込む。
 そのついでに、硬直するクラリスからひょいと紙袋も奪い返し、マリアベルの膝におく。
 アーロンは、昼休みの始め頃からマリアベルとコレットを見つめていた。
 だから、このクッキーが、コレットからマリアベルに贈られたものだと知っているのだ。

「割り込んでごめんね。ベルたちに、なにか用だったかな? クラリス嬢」

 彼は微笑んでいるが、目が笑っていない。
 クラリスの前に立ちふさがるアーロンは、「これ以上は許さない」と言わんばかりの圧を放っていた。
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