鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~

鮮血姫の余裕と、守りたい男

 逃げていくクラリスたちを冷ややかに眺めつつ、アーロンは小さくため息をついた。
 遠目ではあったが、クラリスがマリアベルに敵意を抱いていることはわかった。
 マリアベルがいつもご機嫌なものだから、アーロンは、彼女はいじめなど受けていないと思い込んでいた。
 だが、これである。
 クラリスは当然のようにマリアベルに絡んでいたし、マリアベルもずいぶんと慣れた様子だった。
 おそらく、今日から始まったものではない。
 今いたのがクラリスだったというだけで、他の女子からも嫌がらせを受けている可能性だってある。
 アーロンは、マリアベルがいじめの標的になっていると気が付けなかった自分と、マリアベルをやっかむ者たちに、怒りを抱いた。

「……ベル。ごめん。きみが困っていることに、もっと早くに気が付けなくて」
「このくらいは、私も覚悟しておりましたから。けれど、私だけならともかく、コレットを巻き込むことになるのは困りますねえ」

 マリアベルは傷ついた様子もなく、うーんどうしましょう、と頭を悩ませている。
 そう、マリアベルはこういう性格なのだ。
 ドレスすら買えないほどに貧乏で、領地を守るために魔物を狩って狩って狩りまくる暮らし。
 そんな生活をしていたからか、彼女は同級生女子の嫌がらせぐらいでは動じない。
 襲い来る魔物をばっさばっさと倒し、血を浴びる生活を長年続けていた人が、明らかに自分より弱い女子がきゃんきゃん吠えているのを気にするだろうか?
 気にしないのである、これが。
 彼女が自覚しているかどうかは不明だが、マリアベルは、ちょっとした嫌がらせなど「あら風が吹いたわね」ぐらいにしか思わない、強者であった。
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