鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~

お祝いムードと戸惑いと

 マニフィカ邸の使用人は、学院入学前と変わらず執事一人だ。
 当然の如く彼は多忙で、よほどタイミングがよくなければ、マリアベルの出迎えなどできはしない。
 幼いころから貧乏育ちのマリアベル。今更、出迎えの有無など気にしてはいなかった。ないのが当たり前なのである。

「おかえりなさいませ、お嬢様」
「た、ただいま……?」
「お嬢様がご帰宅なさったと、お父上に伝えてまいります」
「え、ええ……」

 だが、今日は帰宅と同時にすっと執事が現れて、当主である父に知らせにいった。
 まるで、マリアベルの帰りを待っていたかのようなタイミングである。
 なにかしら、今日はみんな変ね、と、広さだけはあるエントランスホールで首を傾げていると、慌てた様子の父がやってきて。

「ベル! お前宛てに、アークライト家から婚約の打診がきた!」

 二階の廊下の手すりから身を乗り出す勢いで、興奮気味に叫んだ。
 階段をおりてマリアベルの前に立つことすらせず、エントランスから続く階段の上でそう言ってくるのだから、よほど早く伝えたかったのだろう。

「アークライト家から、婚約の、打診……?」

 父の言葉がいまいち飲み込めず、マリアベルはぽかんとした。
 そんな彼女とは対照的に、マニフィカ伯爵は、

「もちろん、お相手はアーロン様だ! よかったな、ベル」

 と、階段をおりつつ、娘を祝福する父親モードで笑う。

「今日は祝いの晩餐だ! さあベル、みんなで夕食にするぞ!」
「え? え? お父様、ちょっとまっ、おとうさま」

 そのまま、あれよあれよという間にダイニングへと連れていかれる。
 今日はお祝いだと、夕食はいつもよりちょっと豪華で。
 両親も、少し年の離れた弟たちも、執事も、「おめでとう」「アーロン様なら安心だ」「よかった」と口にする。
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