鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~

押し切る男と、流された妖精姫

 翌朝も、アーロンはいつもと同じようにマリアベルを迎えにきた。
 婚約の話がマニフィカ家に届いたことは、アーロンも把握しているのだろう。
 馬車に乗りやすいようマリアベルに向かって手を差し出す彼は、どこか緊張した面持ちだった。
 
「……おはよう、ベル」
「……おはようございます。アーロン様」

 マリアベルはマリアベルで、今までのようなにこにこご機嫌ご挨拶ではなく、ちょっと表情がかたくて。
 静かな二人を乗せて、馬車は学院に向かって動き出す。
 マリアベルは、アーロンの意思を確認しなければと思っていた。
 けれど、どう切り出すべきかと悩んでしまい。

――いざ話そうとすると、どうしたらいいのかわからないわ!

 ううーんと考え込む様子の彼女に声をかけたのは、アーロンだった。

「……その様子だと、マニフィカ伯爵から婚約の話を聞いたみたいだね」
「……はい。アークライト家から、婚約の打診がきている。お相手はアーロン様だと」
「そっか。入学直後のパーティーの日、急にきみに婚約を申し込んでしまったあのときは、僕個人の暴走だったけれど……。今度の話は、家を通した正式なものだ。……ベル。受け入れてくれるかな」
「それは、その……」

 心配そうに笑顔を作るアーロンの隣で、マリアベルは俯いてしまう。
 はい、と簡単に返事をすることは、できなかった。
  
「前にもお話しましたが、マニフィカ家は魔力の高い家系ではありません。私と結婚して子を持っても、魔法の才に秀でた子が産まれるとは限らないのです。私が、アークライト家の期待に応えられるかどうかは……」
「ベル。違うよ。たしかにアークライト家は、きみの魔法の腕を……強さを評価している。けれど、魔法の才能に秀でた子が欲しいから、きみに婚約を申し込んでいるわけじゃない」
「ですが、それ以外に、私などとの婚約を希望する理由など……」
< 94 / 113 >

この作品をシェア

pagetop