炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

氷の皇帝の秘密

「お初にお目にかかります。ミーシャ・ガーネットと申します」

炎の鳥を空へ逃がし、摘んできた花束を地面に置くと、屈膝礼(カーテシー)をした。
両手で広げ持ち上げたスカートには、木の葉がついている。

「あなたが、ガーネット女公爵の令嬢?」

 記憶と違う低い声だった。

下を向いたまま「はい」と答えながらミーシャは、後悔していた。
冷たい空気と強い魔力を感じ、もしかしたらリアムかもしれないと、予感はあったのだ。

雪を操るかわいい氷の妖精は、すっかり立派な青年になった。 
切れ長の目、高い鼻筋、形のいい唇。すべてが完璧に整っている。男性なのに見た目は昔と変わらずきれいで美しい。

 まさに『氷の皇帝』

 一方、かつての師は、土まみれで魔力はほぼ持たない小娘。

政略結婚を拒み、命日には会わないように部屋に引きこもり、やり過ごしてきた。今生ではクレアだったことを伏せ、リアムと関わらないで生きると決めていたのに、確かめるためとはいえ、こんなに彼に近づくことになるとは想定外だ。

「公爵令嬢。話はあとだ。そこにいて」
「え?」

思わぬ再会に動揺していたミーシャは、顔をあげて驚いた。
リアムを中心に白い煙のようなものが放たれている。冷気だ。彼は右手を横へ向けるとその手に大きな氷の剣を一瞬で作りあげた。

剣を構えるのと、黒ずくめの男たちが現われるのはほぼ同時だった。男たちはリアムを挟むようにしていきなり斬りかかった。
 
魔力で作った氷の剣は強化されているため鉄のように固い。襲いかかる刃を受け、キンッと弾く音が辺りに響いた。

ミーシャは男たちの接近にまったく気がつかなかった。動揺しながらも他に敵がいないか警戒してまわりを見る。

リアムは魔力だけじゃなく、剣技も大陸一と噂されるほどだが、今は護衛が一人もいない。相手からの攻撃をうまく受け流しているが、敵が何者かわからない。二対一では分が悪い。

男の一人がリアムの背に回ると、斧のような武器を振り上げた。ミーシャは思わず駆けだした。
pagetop