炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「せっかくなのでゆっくりなさってください。お茶を用意したので飲んでからでも……」
 
 侍女たちが、机の上でティーカップをセットしているが、リアムは丁重に断った。

「エルビィス先生の顔を見られたので安心しました。今後の準備も必要なので、失礼します」

 リアムはエルビィスに「また来ます」と声をかけると部屋を出た。長い廊下をジーンが少し先を歩きながら進む。

「陛下、急ぎましょう」
「わかってる」

 話ながら、正面玄関へと続く階段を下りようとしたときだった。

「うわああっーー! 嘘です、陛下! すとおっぷぅ、回れ右!」

 ジーンが間抜けな声で雄叫びをあげた。

「おまえ、誰に向かって命令を……」
「ごきげん麗しゅうございます。我が偉大なる皇帝陛下。いえ、……リアムさま」
 
 リアムはジーンではなく階下を見た。そこにはカーテシーをしているナタリーがいた。

「ナタリー、顔をあげろ」
「ありがとうございます。父への見舞い、大変光栄でございます」
「大事な恩師だ。見舞うのは当然だろう。日々の看病も大変と思うが、無理はしないように」

 ほほえむナタリーの横をすり抜け、出口へ向かおうとしたが彼女は進路を塞いだ。
 艶やかで手入れのいき届いた長い髪が揺れ、遅れるようにふわりと、甘い香りがした。
pagetop