炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「……ミーシャさまの耳には、お入れにならないのですか?」
「令嬢に、魔鉱石の存在を知られたくない。オリバーを警戒
してもらいたいが、関心はこれ以上持たれたくない」

 イライジャはリアムをじっと見つめたあと、目を伏せた。

「御意のままに」

 胸に手を当て、深くお辞儀をする彼の肩からゆっくりと手を離した。サファイアの原石を再び内ポケットにしまう。

「イライジャ。引き続き、彼女の警備を頼む」
「お任せください。この身に変えてもお守りいたします」

 リアムはイライジャが去ったあと席を立ち、窓に近づいた。背後にジーンが控える。

「白狼の帰り、遅いですね」
「白狼? ああ、そうだったな」

 ジーンに訊かれ、リアムは白狼に国境のようすを見に行くように頼んでいたことを思い出した。

「陛下、精霊獣を見ようとしたんじゃないんですね。ということは、ミー……」
「我が優秀な宰相は、口がよく滑るな。やはり一度凍らせたほうが良さそうだ」
「冗談はよしてください。これ以上口の滑りがよくなったらどうするんですか。アイススケートができちゃいます!」
 
 リアムは「口の上で?」と思わず言い返した。ふっと笑い、肩の力を抜く。

「すまない。オリバーが絡むと冷静でいられなくなる。貴殿の妹君の言うように、今から張り詰めていると、いざというとき病で動けない」
「妹が、陛下の役に立ってなによりです」

「仕事に戻ろう。さっさと終わらせる」
「はっ。かしこまりました」

 リアムは自分の席に戻ろうとしたときだった。執務室のドアが強く叩かれた。

「リアムさま、お兄さま、火急の知らせを持って参りました」

 ドアの外から聞こえてきたのは、今朝、アルベルト邸で会ったばかりのナタリーのものだった。

 ジーンが駆け寄り、ドアを明ける。廊下には、上気した頬と息を切らせた彼女がいた。

「噂をすれば、だな。ナタリーどうした?」

リアムと目が合うと、彼女はほほえんだ。

「陛下、父が、さきほど、意識を取り戻しました……!」
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