炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

月がきれいだった夜

 数時間後、ミーシャは日が暮れても、炎の鳥を明かり代わりに雪を掘り、草花を探し求めた。冷えすぎて手先の感覚がなくなると、息を吹きかけて温める。

 ライリーには何度もとめられた。だが、ミーシャは手を動かし続けた。雪をかき分けているあいだは無心になれたからだ。

「もう、そのあたりでやめておけ。暗くてなにも見えないだろ?」

耳に届いた声に、ミーシャは固まった。

「きみの大事な侍女たちが凍えてしまう」

 さくさくと雪を踏みしめ、近づいてくる人がリアムだとわかっていても、ミーシャは振り向かなかった。しゃがみ込んだまま草花を仕分けして袋に入れる。

「侍女とイライジャさまには懐炉と炎の鳥を持たせています」
「なるほど。それで令嬢の傍にはいつもいる炎の鳥が少ないのか」

 急に背中が重くなった。振り返ると、リアムの外套が肩にかけられていた。あわてて立ちあがる。

「私は大丈夫です。陛下のほうが身体を冷やしてはだめです」
「魔力を使っていないから大丈夫。寒いだけなら平気だから」

 リアムは外套の前を止めると、さらにマフラーをミーシャに巻き付けた。

「迎えに来た。帰ろう」

 やさしくほほえまれて、なぜか泣きたくなった。情けない顔を見られたくなくて顔を逸らす。

「……片付けたら帰ります。陛下はお先に戻っていてください」
「手伝おう。なにをすればいい?」

 ミーシャは首を横に振った。

「イライジャさまとライリーたちで道具を運びます。陛下の手をわずらわせるわけには……あれ?」
 
 ふと周りを見ると、イライジャもライリーもいなくなっていた。スコップなどの道具は持って行ったらしく、なにもない。

「イライジャの護衛は昼のあいだだけだ。侍女たちにはお風呂の準備を頼んだ」
「そう、ですか……」
「食事もまだなんだろう。どうした? きみが周りが見えなくなるなんて。らしくない」

 リアムはミーシャとの距離を縮めると、手を伸ばしてきた。

「陛下に、会いたくなかったからです」 

 肩を竦めて身構えていると、彼の手がミーシャに触れる前に止まった。
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