炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「……なにか、気に触ったか?」
「陛下は、なにも悪くありません。無力な自分がいやで、顔を合せられなかっただけです」
「無力? 昨夜も言ったが、きみには十分助けられている」

 ミーシャは下を向いたまま「十分じゃありません」と答えた。

「あらためて、思ったんです。陛下の病は緩和するだけじゃなく、完治してこそだと」
「それで、焦ってこんな時間まで薬草探しか」
「私が陛下の役に立てるのはこのくらいですから」
「……やはり、今夜のきみはおかしいな。なにかあった?」

『あなたはクレア師匠を思い出させ、過去に縛りつける。陛下の傍にいるべきじゃない』

 イライジャに言われた言葉が頭を過ぎった。

「なにも。ただ、……私があらわれたばかりに、陛下とナタリーさまの関係を難しくしてしまったんじゃないかと思いまして」
「どうして今、ナタリーが出てくる」

 リアムは理解できないと言いたげに目を細めた。 

「昼間、陛下とナタリー嬢が一緒にいるところを見かけました」
「危篤だったエルビィス先生が意識を取り戻したんだ。その報告を受けていた」

  ミーシャは目を見開き、顔をあげた。

「……エルビィス先生、容体が悪かったんですか?」

 驚きのあまり、無意識にリアムに詰め寄っていた。

「具体的に今、どのようなようすなんですか? いつからですか?」
「きみは、エルビィス先生を知っているのか? まだ、話してなかったはずだが」
「あ、えっと……、母から聞いておりました」

 エルビィスがリアムの教育係だったことを知っているのは、クレアの記憶があるからだった。ミーシャはあわてて取り繕った。

「先生は、ずいぶん前から悪い。最近は昏睡状態だったから、今朝お見舞いに行ったんだ。それから数時間後に意識を取りもどしたらしく、ジーンの妹君が嬉しくて、飛んで知らせに来てくれた」

「そうだったんですね。意識が戻ってよかったです」
「先生には我が国で一番優秀な医師と薬師を手配しているが、よかったらきみにも一度、薬を調合してもらってもいいか?」
「ぜひ。調合させてください」
「詳しいことはあとにして、室内に戻ろう」

 ミーシャは頷きを返した。草花を入れた袋をまとめていると、リアムがすべての袋を持ってくれた。
先に歩いてと促され、しかたなく彼のつけた足跡を辿るようにして、前に進む。

「で? 俺と会いたくなかった理由にナタリーはどう関係してくる?」
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