炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「仮であろうがなんだろうが、俺の婚約者で、未来の妻は、きみだけだ」
「でも……」
「きみ以外に妃を迎えろとか、こうしろとか、もう二度と言うな。わかった?」

 リアムはミーシャの後頭部に手をまわすと、そっと引き寄せ、前髪にキスを落とした。

「俺が子どものころよく、師匠がしてくれた。親愛の証だそうだ。大切だからこそ、言葉と態度で伝えることが大事だと、教わった」

「……クレアは、陛下のことがとても大切だったんだと思います」

 ――リアムが大切で、大事。その気持ちは今もずっと、変わらない。

「あなたは、クレア師匠と見まがうほどだ。だから、最初から気になっていた。だが今は、きみをひとりの人間として気にかけている。傍にいられる限り、大事にしたいと思っている」

  碧い瞳が、いつにも増して真剣な色に染まっていた。

「陛下こそ、今日、なにかありましたか?」

 恩師であるエルビィスが意識を取り戻したというのに、それにしては浮かない顔をしている。リアムの言葉やしくさが、いつも以上に真摯に感じた。

「……オリバーの情報が少しだが入った」
「……あまりよくない情報ですね?」

 暗い表情のまま、彼は頷いた。

「きみを危険にさらしたくないと、今まで以上に強く思った。オリバーの痕跡を知るまでは、正直、きみとは距離を取るべきだと考えていた。だけど、もう無理だ。誰にどう思われてもかまわない。俺は全力できみを守るし、きみも、全力で俺を守れ」

 化学反応するみたいに、リアムの強い言葉と眼差しに反応して、ミーシャの心と身体が熱くなっていく。

『あなたは陛下の傍にいるべきじゃない』
――わかってる。クレアの影から彼を解き放つのが私の役目。

『陛下にはナタリーさまがお似合いだ』
 ――私もそう思った。そして同時に、苦しかった。リアムがナタリーさまと一緒にいるのが、彼の笑顔が自分ではないものに向けられていることが、悲しかった。

……浅ましくも、リアムを取られたくないと、思ってしまった。
pagetop