炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

師匠と弟子

 魔鉱石は、リアムが魔力を暴走させるようすを見て、クレアが発案した魔道具に過ぎない。

 
 *十七年前の春*

「師匠、これはなんですか?」

 九歳になったリアムが、フルラ国での生活に慣れてきたころだった。彼は書斎の机に置いてあった涙型の大きな宝石を見つけると、目を輝かせながらクレアに訊いた。

「こんな大きなガーネットは初めて見ます」
 
 宝石はクレアの髪のような色をしていた。全体は朱色を帯びているが、角度を変えると黄金色に輝いて見える。

「『魔鉱石』よ。試作品ではなく、完成品第一号。リアムに見せようと思って、待ってたの」
「ついに完成したんですね、おめでとうございます」 
 
クレアはほほえみながら頷いた。

「この魔鉱石があれば、魔女じゃなくても炎を操ることができる。しかもね、これ、魔力を込めるだけじゃなくて、閉じ込めた魔力を増幅させることもできるの」

「それはすごいですね。フルラ国王さまも、きっと喜びますね」

 リアムは天使のような笑みを浮かべていた。

「もちろん、国王さまは喜ぶと思うけど、魔鉱石を作ったのはリアムのためよ。リアムの魔力制御の修行を見ていて思いつくことができたの。魔鉱石の完成はリアムのおかげです」
「僕はなにも……。でも、師匠のお役に立てたのなら嬉しいです」
 
 ミーシャは、彼の手をつかんだ。

「リアムの溢れる魔力を見て『炎の鳥』に似ていると思ったの。炎の鳥を私は取り込んだり操ったりできる。同じ要領で、溢れる魔力は別の器に移せればいいんじゃないかなって」

 リアムの力の暴走原因は主に三つだった。
 生まれ持った魔力量が桁外れに多いということ。魔力量が歳を追うごとに増して、幼い身体には収まりきれず、小さな感情の揺れでさえ引き金となり溢れ、暴走した。

 もう一つの原因は、クロフォード家はガーネット家と違い、魔力を使えばその分、身体へのダメージがあった。

 本来なら扱いきれない力に身体がついていかず、命を縮めてしまう「凍化病」が起こるが、リアムは寒さへの耐性も強く、今のところ、いくら力を使おうが身体へのダメージは見られなかった。

 のちに、侵入者を阻み、凍らせるためにリアムが発案した『流氷の結界』を張るまでは。
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