炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
 ミーシャは彼の腕に手を当て背伸びをすると、そっと、横顔にキスをした。
 リアムは目を見開くと、氷を溶かすのを止めてミーシャに向き直った。

「憎しみに染まってはだめよ。復讐は誰も幸せにしない。成したところであなたの心は救われない」

 まっすぐ目を見て伝えた。
 リアムは眉間にしわを寄せたると、ミーシャの頬に愛しむように触れた。そして、髪をそっと掴むと、焼け焦げた部分にキスをした。
 落ち着いてくれた。そう思ったが、

「……それでも誰かが止めないといけない。たとえ、叔父を殺すことになっても」

 彼の瞳の奥は、憎しみの青い炎が揺らめいたままだった。

「リアム!」 
「俺は救いを求めていない。ただ、ミーシャやみんなを守りぬく。それだけだ」

 リアムは、ひびが入り、薄くなっているところへ氷の剣を突き刺すと、無理やりこじ開けた。

「待って」
「ミーシャはここにいろ」

 彼は壁を強引に抜けると、ミーシャが穴を抜ける前に、瞬時に修復して閉じこめた。

「だめ! お願い行かないで、リアム!」

 喉が痛くなるほど叫んだが、彼は振り返ることなく、オリバーを追って行ってしまった。


 一人部屋に残されてしまったミーシャは、氷の壁を何度も強く叩いた。
 この騒ぎでも侍女たちはこない。きっとリアムが近寄るなと言ってから部屋に入ってきたのだろう。
 なにもできない自分が悔しくて、床に座りこんだ。

 自分だってオリバーは許せない。しかし、リアムに叔父を殺すという選択をさせてはならない。絶対に。

「落ち込んでいる場合じゃない。早くここから抜け出さないと」

 息を整えると立ちあがって、リアムが作った氷の壁をあらためて隅々まで見た。
 彼が通った穴はあの短時間できれいに塞がっている。やはり溶かすより作るほうが得意のようだ。

「魔力も使い過ぎてる。身体が凍って、すぐに動けなくなる……」

 壁は部屋を二分していた。こっち側には暖炉がある。薪をくべて火を起こし、炎の鳥を呼ぼうと考えた。薪を暖炉の中に並べていると、急に寒くなった。

 驚いて振りかえると、氷の壁をするりと通り抜けて、白くて大きな狼が入ってきた。

「白狼? え、どうして?」

 いつもリアムの傍にいる白狼だ。しかし普段はミーシャに近寄ってこない。
 
「こんにちは。白狼さん」

 あいさつをすると、白狼はミーシャの前に座った。
頭をまっすぐ天井に向かってあげて、首元を見せてくれた。おかげで長い毛の合間に、朱く光る物を見つけた。
 
「これ、もしかして……クレア魔鉱石?」

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