炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

炎の魔女を倒せ

 かまくらの外は酷く吹雪いていた。白一色の世界で、先がまったく見えない。
 徹夜してしまったリアムとミーシャは、戦いに備えるために一時のあいだ、仮眠をとることにした。

 ひどい疲れで身体が重い。横になればすぐに寝つけると思ったが、その期待はあっけなく裏切られた。

 ――眠れない。

 氷の宮殿では毎晩一緒の寝台だった。お互いの体温が伝わる距離で寝起きしていた。だけどそれは治療のためで、仕事だと割り切れた。

 今はリアムが好きと自覚している。美しい星空とオーロラが見える夜に、リアムと気持ちを通わせてしまった。

 必要以上に彼を意識してしまい、好きという感情がミーシャの眠りを妨げる。

 一方のリアムは、すうすうと寝息をたてていた。瞳を閉じた彼に、幼いころの少年リアムを重ねる。

 さらさらで、やわらかそうな銀色に輝く髪に触れたい。しかし今動いたら起すかもしれない。ミーシャはリアムの腕の中からの脱出をあきらめて、彼の伏せられた長いまつげを一本一本数えた。

「……時が、止まれば良いのに」
「ミーシャと一緒なら、いいよ」

 リアムの目が開いて、ミーシャは驚いた。

「お、おはよう。もう少し、寝る?」
「いや、そろそろ起きる。ミーシャは、眠れなかった?」
「大丈夫。少しまどろんだから」

 まだ眠そうな顔のまま彼は、ミーシャに手を伸ばす。顔にかかったままの髪をやさしく触れ、手で梳いて整えていく。

「淡くてやさしい桃色に、少し黄色みがかっているミーシャの髪は、陽に透かすと特にきれいで、好きだ」
「……ありがとうございます」

 リアムはミーシャを腕枕するのをやめて、上に覆い被さってきた。上からじっと見下ろされていると緊張が増してくる。息をひそめて彼を見つめかえした。

「眼も、鼻も口も、手の先、足の先までミーシャは美しいな」

 組み敷いたまま甘美な言葉を口遊(くちずさ)んだリアムは、まず前髪に唇で触れた。次に額と瞼、頬、耳へとミーシャを確かめるようにキスを落としていく。
 恥ずかしくて抵抗したいが、触れていい、拒否しないと言ってしまった手前、がまんして彼のしたいようにさせて、受け入れる。
 熱を帯びた深い口づけを交わしたあと、ミーシャはリアムの髪に手を伸ばした。
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