炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
しばらくしてリアムは起きあがり、かまくらの外を見た。

「……オリバーは、冷凍睡眠から目覚めて八年と言っていただろ」

 彼の言葉に頷きを返してから口を開く。

「ある人が、氷の国へ運んでくれたと言っていました」
「ある人は、おそらくビアンカだ」

 ミーシャは驚いて、目を見張った。

「なぜ、ビアンカ皇妃が?」
「ビアンカは、兄の妃になる前からオリバーと知り合いだった」
「えっと、ちょっと、待って。ということは、オリバー大公殿下とビアンカ皇妃は……」
「グルだろうな」

 リアムは淡々と続けた。

「冷凍睡眠しているあいだは後宮のどこかに安置されていたんだろうが、目覚めてからもずっと、後宮に潜伏していたとは考えにくい。オリバーは療養しながら帝都やフルラ国に、あの本を広めて回っていたんだろう。悔やまれるのは、今まで奴のしっぽすら掴めなかったこと。流氷の結界は外部の者が敵意を持って侵攻してはじめて反応する。結界を張る前に内部にいては意味がない」

「消息不明と言っても、あの惨事です。オリバー大公殿下は亡くなっているとみんなも思っていました。冷凍睡眠中の彼を密かに運び込まれていたなんて、誰も想像できません」

「それでも、すぐ近くにいたのは間違いない。さっさと始末できていればこんなことにならなかった」

 ミーシャは身体を起すと、彼をじっと見つめて伝えた。

「リアム、言ったでしょう。憎しみに染まってはだめって。復讐は負の連鎖しか生まない。あなたの心は救われないわ」

「ミーシャはオリバーを許せるのか? あの人はクレアに兵を差し向け、死に追いやった張本人だ。クレアから魔鉱石の生成方法を盗み出し、偽物を大量に生産し戦争利用した。目覚めてからも奴は、魔女の印象を悪くする内容の本を配り回った。どうしてあいつを許さないといけない?」

「オリバーさまのしたことは私も許せないよ。無理に、許さなくてもいいと思う。ただ、話し合いのテーブルにつく前に、相手を殺してはなにもわからないままでしょ? 一方的に傷つけるのは違うと思うの」
「わかることよりも、犠牲を出さないことのほうが大事だ」
「リアム。私は、復讐に生きるよりも、あなたと幸せに生きる道を選びたい」

 リアムはじっと見つめてきた。そして、両手でミーシャの耳を塞いだ。彼は自分で塞いでおきながらミーシャの耳に囁いた。

「タイミングいいな。カルディア兵がお通りだ」

緊張が走り、息を呑んだ。
目を懲らすと、吹雪の向こうにたくさんの人が、前へ進んでいくのが見えた。

「「魔女を倒せ。皇妃を救え!」」

 兵士たちのかけ声が、塞がれていても聞こえた。

「……カルディアにも、魔女は悪い者と伝わっているのね」
「オリバーのしわざだろうね」

 リアムは雪の向こうにいるカルディア兵を、冷たい眼で睨んでいた。

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