炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

選択

 流氷の川を中心にミーシャは、しばらく炎の鳥に乗って飛び回った。
 氷の狼は流氷に近づくと襲ってくるが、離れてまでは追ってこない。

「まるで、結界を守っているみたい」

 地上に降りて、狼の額のサファイア魔鉱石に触れてみたい気もしたが、宮殿に向かったリアムが心配だった。雪原には降りず北上し、王都を目指した。

 氷の宮殿に着いたミーシャはまっすぐにビアンカの後宮に向かった。

「雪と、氷がなくなってる」

 広い庭にはぽっかりと大きな穴が空いている。ミーシャは炎の鳥を急降下させて、穴に突っこんだ。
 炎の鳥から飛び降り、泉の底に降り立ったミーシャは、真っ暗な横穴を眺めた。奥からかすかにリアムの声と、物が激しくぶつかり合っている音が聞こえた。
 戦っている。ミーシャは迷うことなく横穴の中へ飛びこんだ。

 通路を進むとすぐに、広い空間に出た。手に持っている魔鉱石を灯り代わりにして中を覗く。暗いが、ランタンや炎の小鳥がいるおかげで内部が見える。
 
 そこでミーシャが目にしたのものは、壁にオリバーを追いこみ、叔父の首を両手で締め上げているリアムの姿だった。少し離れたところにはノアが大きな氷の中に閉じ込められている。

「リアム!」

 寒い空間を全力で走ったため、息が上がり喉が痛い。走りながら彼の名前を呼んだが、ミーシャの声はかすれ、リアムの耳に届いていない。

 持ち上げられたオリバーの右手に、蒼く光るサファイア魔鉱石が見えた。魔鉱石を中心に氷がナイフを(かたど)る。一瞬オリバーと目が合って、ミーシャは息を呑んだ。

 ――危ない!

 間に合うとか、間に合わないとか、炎の鳥を放つとか、頭に浮かばなかった。
 考えるより先に、身体が動いていた。
 
 自分を閉じこめていた氷を溶かして駆け寄ろうとするノアを追い抜く。オリバーが振り下ろすナイフがリアムに届くよりも先にミーシャは、大切は人に抱きついた。
 対立する二人のあいだに割って入った刹那、背中に激痛が走った。
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