炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「陛下、魔女の件はひとまずあとにしましょう。今は陛下の身体についてもう少し教えてください。結界は国内すべてに張り巡らせているのは誇張ではなく、本当ですか?」

 グレシャー帝国の土地面積はフルラ国の三倍以上ある。国内に流れる川すべてとなると、想像できないくらいの魔力の消費だ。

「結界は、どうしても必要ですか?」
「必要だ。戦争回避の抑止力になる。これは、俺にしかできない」
 
 凍化する原因が流氷の結界の維持ならば、止めればいい話だが、リアムは結界を解く気はないようだった。

 昔から責任感のあるやさしい子だった。誰かが傷つくことに心を痛め、寄り添うことができる人。リアムは帝国で暮らす人々を守るために、自分の身体と命を犠牲にしている。誰にも知られないように、隠しながら。

 皇帝としてのリアムの覚悟を感じた。それならば、

「では、陛下の負担を減らすには、別の方法を考えたほうが良さそうですね。耐性を超えないように、魔力消費の負担を減らすか、補う力が必要です」

 ミーシャは炎の鳥から魔力を補っている。リアムにもなにか方法はないかと、腕を組んで考えこんだ。

「……きみは、真面目だな」

 治療方法を真剣に考えているとリアムの手が、手紙に伸びてきた。あわてて取られないように後ろにさがった。

「な、なんですか、いきなり」
「その手紙だが、破棄してくれていい」

 ミーシャは目を見開いた。

「その手紙がなくなれば、俺の身体がどうなろうときみは関係なくなるだろう」

「意味がわかりません」とミーシャは答えた。
今朝はエレノアに手紙を突き返そうとした。だけど今は、彼との唯一の繋がりだ。取り返されないように手紙を胸の前でぎゅっと抱きしめた。

「……言いましたよね。私はあなたの味方だって。見て見ぬふりはできません。陛下がそのようなお考えなら、手紙を破棄したくありません」

  リアムはため息をつき、手紙を指さすと口を開いた。

「手紙の破棄は、きみのために言っているんだ。どちらにしろ、俺はもとから妃を持つつもりはない。婚約の申しではこれまでどおり、そちらから辞退してくれ」

 冬空のような寒々とした碧い瞳が、自分に向けられていた。
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