炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「魔女に突破された私が悪い。兄ルイスは氷の皇帝として氷の宮殿を、国を守るために正しいことをしたと頭ではわかっていたし、兄のことは尊敬していた。それでも……フルラ国と休戦しても、なぜルシアが犠牲にならなければならなかったんだと言う気持ちは、拭えきれなかった」

 オリバーはおもむろに、氷の中の妻を見つめた。

「しばらくして、落ちこんでいる私に兄は、フルラの魔女なら死んだ者を蘇らせることができると言ったんだ」
「魔女が、死んだ者を?」 

 リアムはにわかに信じられなかった。

「もし本当に死んだ者を蘇らせられるなら、魔女はもっとたくさんの人を復活させているだろう?」

「ルイスも、おまえと一緒で真意を知りたがった。ルイスは私にフルラ国との休戦同盟で、息子リアムを送るから同伴するかと聞いてきた。死んだ者を蘇らせる方法を探れという王命だった」

「……だからあのとき、あんたが一緒にフルラへ行ってくれたのか」
「そうだ。おまえの歓迎セレモニーでもあり、休戦同盟の調印式だった。皇帝陛下の代理も兼ねている」

 戦争を仕掛けたものの被害が大きいのはこちら側で、休戦を申し出たのもグレシャー帝国側だった。

「休戦してすぐに実の子どもを敵国に送るなんて。父は、やっぱり俺が死んでもよかったんだな」
「それは違う。当時の私は炎の魔女より実力では上だった。おまえが大事でなかったら私は同行していない。人質を殺すような国なら私はあの場でフルラ王を殺していた」

 記憶の中のフルラ国民は、とても親切だった。リアムに危害を加えようとする意図は感じられなかった。

「蘇らせる方法が知りたくて、何年も探った。しかしあたりまえだが私は警戒され、情報は得られなかった」

 オリバーは視線をミーシャに移した。

「クレアはとてもいい子だった。だが、ルシアを死に追いやった元凶の、憎い相手の娘」

 リアムはミーシャを守るようにきつく抱きしめながら、オリバーを睨んだ。

「甥っ子は魔女に懐き、彼女はなにも知らずに生きている。時はゆるりと流れ、自分一人だけがずっと、とまったまま。なにもわからないあいだに五年が経ち、自身の凍化も進み、焦りばかりが募っていった。彼女のいない世界。日常が、耐えられなかった。今のおまえなら少しはわかるだろう?」

 オリバーは自分の手のひらを見つめ、ぎゅっと握った。

「クレアが研究していた魔鉱石の技術を盗み、密かに作って戦争を単独で仕掛けた。魔女を憎んでいる兵士を募り、殺せと煽り、蘇りの方法を教えろと魔女とフルラ王に私は迫った」
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