炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

*オリバー・十六年前*

 未完成のサファイア魔鉱石だったが、それを持つ兵士たちは強かった。街を壊し、逃げまどうフルラ国民を凍らせるオリバーに、魔女は炎で対抗した。

抵抗は激しく、彼女は命を賭してオリバーに挑んだが、敵わず火の海に沈んだ。

『……――オリバー大公殿下! どのようなことがあっても人は、死んだら蘇ったりなどしない!』
 
 ひび割れ、壊れたフルラの王宮のあちこちには、倒れたまま動かない兵士がそのままにされていた。敗戦は明白、それなのにオリバーに追いこまれてもなお、フルラ王は気丈に振る舞っていた。

『この期に及んでまだ隠すと言うのなら、私はこの国をすべて凍らせ滅ぼす』
『死者を蘇らせるのは悪魔の所業だ』
『言われなくてもわかっている』

 オリバーは『いいから早く吐け』と、氷の剣をフルラ王の喉元に突きつけた。

『残念だが、おまえでは無理だ』
『だからその理由を話せ』

 フルラ王は、哀れむような目をオリバーに向けた。

『……人を蘇らせられるのは、炎の鳥と、炎の鳥を操れる魔女だけだからだ』

 死の淵に追いこみ、やっと聞き出せたフルラ王の言葉にオリバーは絶望を覚えた。

『魔女ならさっき死んだ。蘇りは、生き残ったクレアでも可能か?』
『クレアには無理だろう』
『なぜだ』
『人一人蘇らせるのに、万の命が必要だからだ。民は宝だ。そして希望という名の力だ。その方法を、魔女は禁じ手として一度も使ったことがない。ゆえに娘に伝えていない。魔女はおまえの目的を知り阻止するために、命を賭したのだろう』

 フルラ王は、オリバーを嘲るように笑った。

『希望の光? 俺にとって希望は民ではない。クレアだ……』

 彼女を生き返らせる方法が潰えた。悪あがきの五年が無為になり、やるせなかった。

 フルラ王を亡き者にしても、気は晴れなかった。沸々と込みあげる後悔と憎悪。
 オリバーはサファイア魔鉱石を握りしめ、怒りの矛先を、魔女クレアと、自分よりも魔女に傾倒してしまった甥のリアムに向けた。


 かわいがっていた甥にまで手をかけた罰か。クレアが命をかけて最後に放った炎の鳥が、復讐に燃えるオリバーを包んだ。



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