炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

英雄と悪い魔女

契約内容について話がまとまったころ、ドアをノックする音が聞こえた。
 入ってきたのはリアムの側近数人と宰相のジーンだ。リアムの前に跪づく。

「陛下、遅れて申し訳ございません。体調はいかがですか?」
「見てのとおりだ」

 ジーンは顔をあげて、リアムの顔をじっと見た。

「顔色がよろしいですね。なによりです。女公爵令嬢さま」

 ジーンはミーシャに向き直るとにこりと笑い、丁寧にお辞儀をした。

「このたびは迅速な治療をしていただき、誠にありがとうございました」
「私はなにも。たいしたことはしておりません」
「たいしたことですよ」と、彼は目を大きくさせた。

「陛下はあの状態になると、半日から数日は寝込んでしまいます。この短時間で動けるほどまで回復しているのが信じられないです」
「私がしたことは応急処置です。根本的な治療ではありません」

 ミーシャは首を横に振った。

「いや、今回の処置は迅速で適切だった。礼を言う」

 リアムの言葉のあとに、ジーンはうんうんと強く頷いた。

「陛下。エレノアさまがお部屋をご用意してくださいました。そちらへご案内します」

 リアムはソファからゆっくりと立ちあがった。ジーンに続いて部屋を出て行こうとしたが、ふと足を止めて振り返った。
 さっきまでは寒空のようだったが今は穏やかな眼差しだ。じっと見つめられて落ち着かない。

「本当に助かった。引き続き世話になるが、よろしく頼む」

 リアムが治療に前向きになってくれたんだと思った。嬉しくて頬がゆるむ。

 凍化病の原因が、流氷の結界だとわかっても、現状どうしたら良いかはわからない。それでもリアムの病は必ず治してみせる。

「お任せください」と笑顔をそえて、ミーシャは屈膝礼《カーテシー》をした。

 リアムが部屋を去り、一人になると力が抜けた。その場に座りこんでいると、炎の鳥が飛んで来て、ミーシャの肩にそっと留まった。

「お任せくださいなんて言ってしまったわ。……こんなはずじゃなかったのに」
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