炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

「魔女の印象をよくする契約ですが、必要以上に怯えさせ、不安を(あお)るようなことはしたくないです」

 ジーンは下を向き、「そうですね……」と言ったあと顔をあげた。

「ミーシャさま、人は知らないものを畏れるものです。最初は好奇の目を向けられるでしょう。だけど、知ってもらわなければいつまでも変えられない。つらいでしょうが、陛下のためにどうか堪えていただきたい」

 つまり、リアムのために耐えろということだ。ジーンの変わらないリアムへの忠誠心に、胸の不安が軽くなった。

 ――良かった。リアムの周りには、彼を慕ってくれる人たちがたくさんいる。だからこそ私は、今さら邪魔をしたくない。

「私は、人の目が怖くて、これまで引きこもっていたわけではありません。避難の言葉を浴びるのはかまわないんです。魔女はそれだけのことをしてきましたし、嫌われているのを承知でこの国にきました。私が恐れているのは、陛下の評判を落としてしまうことです。ジーンさまは一時(ひととき)とはいえ、本当に、私が妃でよろしいのですか?」

 ジーンは、さっきよりも目を見開いた。

「母エレノアから聞いております。陛下と私の縁談を勧めたのは、ジーンさまだと」

 リアムは結婚に無関心。縁談相手を探しミーシャを推したのは、目の前にいる彼だ。

「これまで会わないようにしていたのは私ですが、実はずっと、ジーンさまの考えをお聞きしたいと思っていました。私では、飾りの皇后ではなく、呪われた皇后になる。それでもいいのですか?」

 彼は、にこりと笑うと口を開いた。

「なぜあなたを推すのか、答えは一つ。ミーシャさまなら、陛下を幸せにしてくれると思ったからです」

 今度はミーシャのほうが目を見開いた。

「あなたさまと直接お会いしたのは、先日陛下が倒れたときですが、私はそれ以前にエレノアさまから令嬢のことをお聞きしておりました。屋敷を抜け出し、慈善活動をしていることも調べて知っておりました」

「え?」と驚いたが、彼ならそれくらいするだろうと思いなおした。
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